今回も、前回の続きとして、イラン北西部・東アーザルバーイジャーン州の諸民族をご紹介してまいりましょう。

東西両アーザルバーイジャーン州、アルデビール州、そしてギーラーン州の一部を含むイラン北西部は、山がちである事から多様な気候風土に恵まれています。この地域は、緑豊かな森林や広大な牧草地が存在することから、様々な部族や遊牧民が暮らしています。

これらの州の部族は、夏と冬の移動の時期には、州境を通過し、自分たちが飼育している家畜を、放牧に適した地域に移動させます。東アーザルバーイジャーン州は、多様な気候風土に加えて、緑豊かな牧草地や森林が存在することから、イランでも有数の部族地帯となっています。

 

東アーザルバーイジャーン州の部族の移牧の様子

 

この番組でご紹介しているタブリーズ市が、2018年のイスラム圏の観光モデル都市に選ばれ、またエスニック・ツーリズム計画が実施されたことで、観光客の滞在にふさわしい設備や可能性が整えられ、部族の暮らしを間近に体験できるようになっています。

東アーザルバーイジャーン州キャレイバル行政区では、ガラギーイェ族という部族のスポーツ文化祭りが開催されることから、州内はもとより国内のそのほかの都市からも、毎年数万人もの人々がこの地域を訪れ、地元の部族の暮らしに触れ、自然の美を堪能しています。

 

東アーザルバーイジャーン州のガラバーグ族によるスポーツ文化祭りの様子

 

東アーザルバーイジャーン州の部族は、シャーフセヴァン族とアラスバーラーン族の2大部族に加えて、10の独立した部族で構成されています。彼らは季節によって移動する遊牧民であり、毎年夏に東アーザルバーイジャーン州に滞在する夏の間は、近隣のアルデビール州やザンジャーン州、西アーザルバーイジャーン州からやってくる部族を受け入れます。

アラスバーラーン族は、民族的、歴史的にシャーフセヴァン族と共通したルーツを有しており、ガージャール朝時代までは共通の部族体制を維持していました。アラスバーラーン族の部族体制は、シャーフセヴァン族のそれと似通っており、この2つの部族は慣行儀礼の面でもきわめて類似しています。

 

 

 

東アーザルバーイジャーン州の部族コミュニティは、この州の総人口全体のおよそ2.5%を占めており、150万頭の家畜を有するとともに、イラン国内の部族の拠点としては4番目に位置づけられています。

東アーザルバーイジャーン州に存在する240万ヘクタールの牧草地のうち、およそ100万ヘクタールは州内の部族が保有しており、彼らはこれらの牧草地での放牧により、乳製品の生産に従事しています。東アーザルバーイジャーン州の部族たちは、州内の蛋白源の20%を生産しており、さらに年間あたり9000平方メートルのじゅうたんに加えて、そのほかの各種の手工芸品を製作しています。

全体的に見て、これらの部族は独自の生活様式や服飾、音楽、祝祭や慣行儀礼などを有し、また外部からの客を寛大にもてなすことから、この地域のシャーフセヴァン族とアラスバーラーン族の生活ぶりの見学は、この地域のツアープランの最も魅力的なポイントとなっています。

 

 

 

アーザルバーイジャーン地方の部族は、古くから主にフェルトで覆われた、アーラーチクと呼ばれる半球状のテントを住居とし、それは現在も使用されています。もっとも、シャーフセヴァン族は、このタイプのテントより幾分小さいトンネル状のテント、あるいはたくさんの装飾が施されたテントを使用することもあります。

 

アーラーチクと呼ばれるテントの設営の様子

 

部族らの一家の中でも女性たちの役割は非常に大きく、女性は部族の生活の舞台において傑出した役割を果たしています。女性は、大自然の厳しさやそれに伴う困難の絶えない部族の暮らしの重要な柱である、といっても過言ではありません。部族の女性たちは、妻として、また母親としての役割のほかにも、羊をはじめとする家畜の世話、様々な畜産品の生産、農作業、美しい手工芸品の製作にも携わることで、家族にとって頼りになる存在としての立場を確固たるものにしています。

部族の女性たちは普通、冬の寒い時期にできた余暇の間に各種の手工芸品を制作します。その中でも、主にアラスバーラーン族の女性たちが制作する、キリムの一種でヴァルニと’呼ばれる美しい手織りの敷物がよく知られています。この手工芸品の材料としては、各種の羊毛や絹糸などが使われています。

 

東アーザルバーイジャーン州の部族の手工芸・ヴァルニの一例

 

この種の敷物に編みこまれるデザインや図案は、部族の女性や少女たちの意識に刻まれている自然環境を描いており、これらの無明の芸術家たちに秘められた才能や、清純な精神を示すものです。また、こうしたデザインには、自分たちが飼育する家畜や、地域に生息する野生動物が反映されており、そうした主な動物はシカ、カモシカ、オオカミ、七面鳥、鶏、猫、蛇、タカ、羊、トラ、ラクダ、ライオン、キツネ、チャッカル、野鳥や爬虫類などです。部族の女性たちが作る敷物には、これらの動物や鳥類などが単純な幾何学模様の形式で織り込まれています。

 

部族の女性たちが制作する敷物の一種ヴァルニ

 

 

部族たちのテント内の床に敷く敷物や、テントの外装に最もよく使用されている最高の素材は、ナマドと呼ばれるフェルトの生地で、これは最も高品質の羊毛で作られます。このフェルトの生地は、羊毛を平面の上に自分が希望する大きさに敷き、これを摩擦することによって作られます。このため、こうしたフェルト生地の制作にかかる時間は、最も短い時間で済みます。

部族が生産するフェルト生地・ナマドは、非常に軽く運搬しやすいものです。また、水をはじく事から、湿り気の多い地面にしく敷物として、非常に適しています。このため、馬の背に着せる馬衣や、テントの外装などに多用されます。

 

アーザルバーイジャーン地方の部族による、馬衣としてのフェルト生地の使用例

 

 

アーザルバーイジャーン地方の部族たちが制作する、彼らのオリジナルの織物には、ほかにもハールチャと呼ばれる敷物や、ジャヴァールと呼ばれる手編みの大型の袋があります。敷物であるハールチャには、様々なデザインや幾何学模様が編みこまれており、大型の袋・ジャヴァールは特に図柄は施されておらず、小麦や飼い葉、干草などの運搬に利用されます。ジャヴァールは、敷物の一種であるキリムと同様に織り上げた布地を、袋状に三方から縫い上げ、特に底の部分は簡単に破れないように幾重にも畳んで縫いこまれます。

また、この地域の部族の製作品には、マフラシュと呼ばれる直方体をした、手織りの収納ケースがあります。これは、事前に織り込んだ布を直方体上に縫い上げたものです。この収納ケースは、寝具やその他の必需品の収納に使用され、ほかの地域に移動する際の様々な道具などの運搬や収納に非常に適しています。

 

手編みの収納ケース・マフラシュ

 

 

これらの部族はまた、キリムよりもさらに小さい、マスナドと呼ばれる敷物も生産しています。この敷物の大きさは150センチx80センチほどで、非常にきめが細かく丈夫にできており、主に身内で使用し、装飾品としての側面もあります。これらのうち、最も高品質のものからは、さらに背もたれ用のクッションや枕などが作られています。

次回もどうぞ、お楽しみに。

 

 

2018年08月22日15時55分
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