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昔々、あるところに一軒の店を営む腕の良い仕立て屋がおりました。

昔々、あるところに一軒の店を営む腕の良い仕立て屋がおりました。

この仕立て屋は、腕は確かでしたが1つだけ非常に悪い癖がありました。それは、人々から預かった布の一部を盗んでいたのです。この仕立て屋は、盗んだ布を縫い合わせて、自分のためにシーツを縫ったり、子供たちのために色とりどりの洋服を縫ったりしていました。時には、この布を市場に持っていって売ってしまうこともありました。また、布はしで宗教の追悼儀式のための飾りを作ったときは、人々から、神を信じる人物として感謝と称賛を受けたことさえありました。

 

ある夜のこと。店から家に戻った仕立て屋は、夕食を食べて寝床につきました。そして、夢を見ました。最後の審判の日がやってきて、天使たちが、人々の良い行いと悪い行いについて調べているのです。彼の番になりました。天使は言いました。

「客の布を盗む仕立て屋など調べる必要はない。お前は地獄行きだ!」

 

小さな盗みを重ねてきた仕立て屋は、今や自分の罪が取り返しのつかないほどに膨らんでいることに気が付きました。そこで天使に必死に情状酌量をお願いしましたが、それも無駄なことでした。二人の天使が仕立て屋の手をつかんで、彼を地獄へと連れて行きました。地獄の門に到着したとき、仕立て屋は奇妙なものを目にしました。燃え盛る業火の真ん中で、色とりどりの追悼儀式の飾りが焼かれているのです。その飾りは、様々な布を縫い合わせて作られていました。仕立て屋は、炎の真ん中で燃えている飾りが、自分がその飾りを作るためにとっておいた布でできていることに気がつきました。そして、この飾りは、自分の誤った行いの末路であることを悟ったのです。

 

仕立て屋は、そこで目を覚ましました。全身、汗びっしょりで、炎に包まれた飾りの熱の感触がまだ残っていました。寝床に起き上がって気分を直そうと水をいっぱい飲みました。そして、これまで自分がしてきた行いについて考えてみたのです。仕立て屋は、もう客の布を盗むのはやめようと決意しました。しかし、「習慣を止めると病気になる」という言葉があるとおり、長年、慣れ親しんだ行いを止めるのは、非常に難しいことでした。

 

仕立て屋は、過去の過ちを繰り返さないためにはどうすればいいのか、考えました。次の日の朝、店に行った仕立て屋は弟子を呼んで言いました。

「昨晩、私はある夢を見た。自分のこれまでの行いがどれほど罪深いものだったのか、よくわかった。お前は、今後私が客の布を盗もうとしたら、『親方、飾り!』と言ってくれないか」

 

弟子は尋ねました。

「分かりました。ですが“飾り”という言葉が、あなたの罪を悔いる気持ちとどんな関係があるのですか?」

仕立て屋は言いました。

「余計なことは詮索しなくていい。お前はただ、飾り!と言って、私に思い出させてくれるだけでいい。他のことは気にするな」

                         

それからというもの、仕立て屋がはさみを取り上げ、客の布の一部を切って盗もうとするたびに、弟子はこう言いました。

「親方、飾り!」

すると仕立て屋もすぐに神に許しを請い、醜い行いを思いとどまりました。

 

そんなある日のこと。客の一人が、非常に美しい貴重な錦織の布を持って店を訪れました。仕立て屋は、客が帰ってしまうと、その錦織の布を幾度も触ってその美しさに感動していました。そして、おもむろにハサミを取り上げると自分のために布を切り取ろうとしました。その瞬間、弟子が叫びました。

「親方、飾り!親方、飾り!」

 

しかし仕立て屋は、罪を悔い改める気持ちはどこへやら、一心不乱にハサミを動かしながら、怒鳴り返しました。

「やかましい。私の言った飾りに錦は入っていなかった」

 

弟子は、親方の言葉にあきれ果てて黙ってしまいました。このときから、かつての醜い行為を改めようとしている人に、行いに気をつけなければならないと注意を促すときに、このように言うようになりました。

「親方、飾り!」

 

2018年09月02日17時15分
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